塾で学ぶ人へ

塾で勉強する意味とは何でしょうか。昼間は学校で勉強しているのに、さらに塾で勉強している子どもたちを見ていると、教えているこちらも感心してしまいます。

塾との遭遇

ここで、私自身の塾とのかかわりあいを述べましょう。

私は九州の田舎育ちで、塾といえば学校の勉強について行けない人が通うものと考えていましたし、どこに塾があるのかさえ知りませんでした。したがって、小中高と塾に通ったことはなく幸い予備校にもお世話になりませんでした。

大学卒業後、ある国家試験を目指して勉強するために、一時しのぎのつもりで東日本橋進学教室に入社したのですが、そこで大きなショックを受けました。なんと勉強のできる子どもたちが塾に通っていたのです。

当時は国語や社会を教えていました。というより、鶴亀算だの消去算だの見たことも聞いたこともなかったので、数学は教えられても算数は教えられなかったのです。個人的には国語と数学を教えたいと思っていましたが、文系講師として分類されました。英語はただ覚えるだけの科目のような気がして嫌いでしたが、文系であるからにはやらざるを得ません。国語や社会にしても、自分で問題を解くのと人に教えるのとでは、難しさにおいて大違いです。

したがって、各授業ごとに多くの準備をしなければならず、いつしか自分のための勉強よりも授業のための準備に時間がとられるようになってしまいました。

なにせ開成・麻布・桜蔭などの男女御三家やお茶の水・筑波大付属などの国立中学などへ合格するような子どもたちですから、かなり準備をしておかないと、やることがなくなって授業時間がもたないのです。たとえば、その日の予習シリーズの問題を全部解いてきている子どももいるので、授業の中ではそれ以上の内容に触れなければなりません。今考えると、かなり大量の宿題も出していましたが、それもたいていはこなしていました。正直な話、授業で終わらなかった問題をすべて宿題にしても、何も問題はなかったのです。

才能との出会い

こういう子どもたちの存在は、大きな驚きであるとともに、うらやましくもありました。今まで自分が見てきた世界とは全く違う世界に住んでいたからです。

確かに勉強そのものは大変かも知れませんが、自分の能力を伸ばせる環境の中に身をおくことができるのです。もちろん、その環境もただで手に入るわけではないので、生まれてきた家庭環境というのを考慮すれば、少なくとも勉強に関しては、能力的にも経済的にも幸運に恵まれているということになるでしょう。

また、これらの子どもたちに負けたくない、という気持ちも芽生えました。小学生の段階でこれだけの能力を持っているわけですから、これから中学高校と進むにしたがってどれだけその能力を伸ばしていくのか楽しみであるとともに、10年後この子どもたちと出会ったときに、彼らに恥じない自分でいられるか、という不安が生じたのです。

原動力

以後なんと30年以上も塾で教え続けているわけですが、実際のところ教えているというより、勉強させてもらっているというほうが、正しいかも知れません。なにせ勉強せざるを得ない状況が続いているわけですから。

最初に述べたとおり、スタートは文系講師でしたが、小学校の文系理系、中学の文系理系、高校の文系理系と目の前の子どもたちに合わせて授業の準備をするうちに、中学受験から高校受験・大学受験まで見通すことができるようになりました。

しかし、見方を変えれば30年以上も浪人生活をしているようなものかも知れません。傍から見たら何が面白いのかわからないような生活を、これだけ長く続けられた理由は、第一は教えるためには勉強が必要だったから。そして第二は必要に迫られてやっているうちに面白くなったから。この2点です。

たとえば最初から30年以上かかるようなことをやれといわれたら誰もやらないと思います。私もいやです。必死に目の前の課題を克服しようとするうちに、それに成功する。すると違った課題が見えてきてまたそれに挑戦する。その結果、34年が過ぎてしまったというわけです。

塾で学ぶ意味

最初の話題に戻って、塾で勉強する意味は何か。私なりに整理すると以下のようになります。

1. 勉強しなければならない、という気持ちにさせてくれる。

2. 目的達成のためには、いつ・何を・どのように勉強しなければならないのか、を教えてくれる。

3. 勉強するのに必要な技術と習慣を身につけさせてくれる。

4. 物理的・人的に勉強に集中できる環境がある。

5. 今の自分が学年の中でどの程度の実力を持っているのか、を評価してくれる。

6. 疑問をすぐに解消してくれる。

7. 目的達成まで気持ちを支えてくれる。

新たなスタート

小6中3高3の受験生は入試目前ですから、これまでの学習の総決算として全力を尽くしている最中です。いま総決算と書きましたが、志望校合格は最終ゴールではありません。課題達成の後は、また新たな課題が見えてきます。それを乗り越えるための力は、今必死になって勉強に取り組む中から生まれてきます。

今後の見通しのために、中学受験・高校受験・大学受験までの流れを簡単にまとめておきます。

前提としては入試の仕組みをきちんと知ること。その上で以下の点に注意してください。

1. 中学受験(小学生)

(ア) 4年生・5年生 受験に必要な知識を学習します。学習習慣を定着させます。

(イ) 6年前期 受験に必要な知識を整理します。受験生全体の中での評価をします。

(ウ) 6年後期 志望校ごとの対策をします。

2. 高校受験(中学生)

英語と数学は高校入試のみならず、大学入試をも左右します。英語数学ともに中3夏までには、中学の範囲を終わらせるようにします。

3. 大学受験(中高一貫生・高校生)

国公立を狙うなら英語数学はもちろん、ほかの教科も授業を大切にして最初からバランスよく学習しなければなりません。

塾で学ぶ人は、それだけで十分な幸運に恵まれていることを感謝するとともに、チャンスはいつでもあるとは限らないことを肝に銘じておくべきです。